東京地方裁判所 昭和54年(ワ)5169号 判決 1980年6月26日
原告
高橋三恵
被告
佐藤尚
主文
一 被告は原告に対し、金一〇九万八五三八円および内金九九万八五三八円に対する昭和五四年六月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告
1 被告は原告に対し、金九三七万八四四一円および内金八五三万八四四一円に対する昭和五四年六月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二当事者双方の主張
一 原告の請求原因
1 事故の発生
(一) 事故年月日 昭和五二年五月一八日午後三時一五分頃
(二) 事故場所 埼玉県和光市中央一の二の九先路上
(三) 加害車両 普通貨物自動車(練馬四四ふ四六五〇号、以下、被告車という。)
右運転者および所有者被告
(四) 被害車両 軽四輪乗用車(八八練馬あ一一九五号、以下、原告車という。)
右運転者原告
(五) 事故状況 原告が、前記事故場所において信号待ちのため一時停止をしていたところ、被告が前方不注視のため、訴外上野政広運転の軽四輪貨物自動車(大宮四〇あ三九八一号)に被告車を追突させ、その反動で、右上野車が更に原告車に追突し、その結果、原告が頸椎捻挫の傷害を負つた。
2 責任
被告は、原告の被つた後記損害につき民法七〇九条所定の責任および自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条所定の責任がある。
3 損害
(一) 治療費計 金二三万三一八〇円
(イ) 高田整形外科病院分 金五万円
ただし、昭和五二年一〇月五日から昭和五三年八月二日までの分である。
(ロ) 奥脇産婦人科医院分 金六万一一八〇円
ただし、中絶費用である。
(ハ) 西洋館治療院分 金一二万二〇〇〇円
ただし、昭和五三年七月二八日から昭和五四年二月一九日までの分である。
(二) 交通費計 金九万九八八〇円
(イ) 高田整形外科病院通院分 金八万五八〇〇円
ただし、タクシー往復代金六六〇円、通院一三〇日として計算した。
(ロ) 西洋館治療院通院分 金一万四〇八〇円
ただし、バス往復代金一六〇円、電車往復代金一六〇円、通院四四日として計算した。
(三) 入院雑費 金八万二二〇〇円
ただし、一日金六〇〇円、一三七日分として計算した。
(四) 家政婦料 金四三万円
原告は、昭和五一年一一月以来実弟訴外亡高橋秀臣の子供である高橋憲一(当時一〇歳)、同幸枝(当時七歳)、同信一(当時三歳)を預つてきたが、本件事故により入通院したため、右三人の子供を家政婦に預けざるを得なくなり、家政婦料として金四三万円を要した。
(五) 休業損害 金三九〇万五八四九円
原告は、株式会社グリーンシヤトウにおいてホステスとして勤務していたものであるが、本件事故のため入通院を余儀なくされ、昭和五二年五月一八日から昭和五三年六月三〇日までの四〇九日間、金三九〇万五八四九円(一二四万九三一〇円〔本件事故前三か月間の所得〕÷九〇日=一万三八八一円、一万三八八一円×四〇九日=五六七万七三二九円、五六七万七三二九円-一七七万一四八〇円〔同会社より一部支給された分〕=三九〇万五八四九円)の休業損害を被つた。
(六) 逸失利益 金四一〇万四三三二円
原告は、本件事故により高田整形外科病院において同年七月一五日症状固定と判断され、後遺障害は、自覚症状としては頭痛、頸部項筋痛、上肢の脱力、頸部運動痛、左前腕部シビレ、他覚症状としては左右頸部筋の筋硬縮、頸椎前屈痛、右手に知覚障害、握力低下、頑固な自律神経症状を残し、自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険という。)において一二級と認定された。
右後遺症に伴う損害は金四一〇万四三三二円(一万三八八一円〔日額〕×三六五日=五〇六万六五六五円〔年収〕、五〇六万六五六五円×〇・一四〔一二級喪失率〕×五・七八六三〔七年のライプニツツ係数〕=四一〇万四三三二円)となる。
(七) 慰藉料 金三三四万円
原告は、本件事故のため、次のとおり入通院を余儀なくされ、精神的苦痛を被つた。
(1) 高田整形外科病院(入院一三五日、通院三〇七日中実日数一三〇日)原告は、同病院に、昭和五二年五月一八日一日通院、同月一九日から同年八月三日まで七七日間入院、同月四日から同月七日まで四日間通院、同月八日から同年一〇月四日まで五八日間入院、同月五日から昭和五三年八月二日まで三〇二日間通院した。
(2) 奥脇産婦人科医院(入院三日、通院一日)
原告は、本件事故当時、妊娠三か月であつたところ、本件事故のため、母体の保護および奇形児出産の危険を避けるため、昭和五二年八月三日から同月五日まで右医院に三日間入院し、同月一〇日同医院に一日通院し、妊娠中絶手術をせざるを得なかつた
(3) 西洋館治療院(通院二二五日中実日数四四日)
原告は、昭和五三年七月二八日から昭和五四年三月九日まで同治療院に二二五日間通院した。
以上の入通院慰藉料として金一三〇万円、原告が初めて自分の子供を生める喜びを待つていた矢先、本件事故のため妊娠中絶を余儀なくされた慰藉料として金一〇〇万円、後遺症一二級による慰藉料として金一〇四万円を相当と思料する。
(八) 弁護士費用 金八五万円
原告は、本件訴訟を原告訴訟代理人に依頼し、同代理人に対し、弁護士費用として第一審判決時に金八五万円を支払うことを約束した。
4 損害の填補
以上のとおり、原告の本件事故による総損害額は計金一三〇四万五四四一円であるが、原告は、自賠責保険より金一五七万円(後遺症一二級分)、被告より金二〇九万七〇〇〇円(休業補償費分)を受領したので、この受領額を控除すると、原告の残損害額は金九三七万八四四一円となる。
5 結論
よつて、原告は被告に対し、右金九三七万八四四一円および弁護士費用を除く内金八五二万八四四一円に対する本訴状送達日の翌日である昭和五四年六月一六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 被告の答弁
1 請求原因12の事実は認める。同3の事実は否認する。同4の事実中、原告がその主張の各金員を受領したことは認める。
2 原告主張の損害については次のとおり考えるべきである。
(一) 西洋館治療院の治療費について
原告は、昭和五三年七月八日から昭和五四年三月九日まで右治療院で鍼治療を受けているが、右治療は原告の後遺症固定日(昭和五三年七月一五日)以後に行われたものであり、医師が原告の後遺症に効能ありと診断して右鍼治療を受けることを指示したものではないから、被告は右治療費を負担すべきいわれはない。
(二) 高田整形外科病院の通院交通費について
原告は、昭和五二年一〇月四日同病院を退院した直後から東京都豊島区西池袋一丁目三七番一二号株式会社グリーンシヤトウにホステスとして自宅より勤務していたが、当時、原告の住所は埼玉県新座市大和田一の五の一二であり、同病院は同市野火止六の五の二〇にあり、原告は、同会社に通勤途中に通院していたので、通院交通費を必要としなかつた。仮に、通院交通費が必要であつたとしても、タクシーによる通院を必要とする病状ではなかつたので、バスによる通院費のみを認めるべきである。
(三) 入院雑費について
原告の病名は頸椎捻挫であるので、入院雑費はさほどかからないと考えられる。したがつて、入院当初六〇日は一日当り金五〇〇円、その後は退院まで一日当り金四〇〇円と算定すべきである。
(四) 家政婦料について
原告は、本件事故当時、実弟亡高橋秀臣の子信一を預つていなかつた。原告は、右事故の約六か月前に同人を実母市川弘子に戻していたのである。原告の夫小林茂は、原告が本件事故で高田整形外科病院に入院したのち、右秀臣の子である憲一および幸枝の世話をしていたが、右茂も本件事故で入院することになつたので、昭和五二年六月五日憲一を右茂の実弟小林三夫に預け、幸枝を実母市川弘子に戻した。以上のとおり、原告は、本件事故により右秀臣の子三人を家政婦に預けたことは全くない。また、本件事故により、原告が幸枝を扶養義務者である実母市川弘子に戻したからといつて、同人に世話料を支払うべき義務はないので、仮に原告が右世話料を支払つたとしても、被告がこれを負担すべきいわれはない。さらに、原告が憲一を小林三夫に預け、仮に同人に世話料を支払つたとしても本来、原告は憲一を扶養義務者である実母市川弘子に戻すべきであつたし、右世話料は同人が支払うべきものであるから、同人に請求すべきであり、被告に請求することはできない。
(五) 休業損害について
原告は、昭和五一年八月ごろから株式会社グリーンシヤトウ経営のキヤバレー「トキワ」に「若葉」No.一〇四でホステスとして稼働していたが、昭和五二年四月に初代のホステス「三枝子」が辞めたので、これを引継いで二代目の「三枝子」No.三一三となり、同年五月一日付で顧客に挨拶状を出した。ところで、初代「三枝子」は顧客が多く常に収入面では「トキワ」のNo.1またはNo.2であつた。原告は、本件事故当時、多額の収入を得ていた旨主張するが、右収入は初代「三枝子」のそれであつて、原告のものではない。また、原告は、昭和五二年一〇月四日退院時、直ちにホステスとして就労可能の状態にあり、翌日からホステスとして稼働していた。そして、友野元博と一緒に同年一一月二二日岡山に二泊三日、同五三年一月三日那須温泉に一泊二日、同年一月二八日韓国に二泊三日の各旅行をし、ホステスとして出勤したときも、屡々外泊や早朝帰りを繰り返していたもので、決して稼働できない身体的状態ではなかつた。仮に、原告にその主張のような収入があつたとしても、その収入より必要経費三五パーセントを控除すべきである。また、原告の休業期間は、昭和五二年五月一九日から同年一〇月四日まで一三九日間だけである。
(六) 逸失利益について
原告は、病院退院翌日からホステスとして稼働し、顧客と屡々泊まりがけの旅行をし、ホステスとして出勤したときも外泊・早朝帰りを繰り返していたもので、後遺症のため労働能力が低下し、収入をあげ得ない状態ではなかつた。
また、原告は、昭和四八年ごろ、低血圧のため自宅の階段から転落し、日赤病院で頭部を七針縫うほどの傷害と頸部捻挫を負つた。原告は、その後遺症として屡々頸部・肩部がこり、昭和五〇年七月ごろ、東武練馬の北町病院に三日位入院し、杉並区西荻の箱崎整形外科病院で治療を受けた。そして、右後遺症は原告が本件事故にあうまで継続していた。したがつて、右後遺症は、本件事故によるものではなく階段からの転落事故によるものである。
さらに、原告がホステスをやめたのは、原告の夫小林茂が服役中他の男と懇ろになつたがためであつて、後遺症による身体の不調のためではない。仮りに、本件事故により右転落事故による後遺症が影響を受けたとしても、本件事故態様からみて、その影響は軽微であつたと認められる。
(七) 妊娠中絶慰藉料について
原告は、妊娠中絶した胎児は、夫小林茂との間に出来た子である旨主張するけれども、同人は結核を患つて右睾丸を切除したため妊娠をさせる可能性はほとんどなく、昭和五〇年三月に同人と同棲を始めてから三年間原告が妊娠したことは一度もなかつた。したがつて、原告が妊娠中絶した胎児は小林茂の子ではない。仮りに、右胎児が小林茂の子であつたとしても、原告は、本件事故後治療中に懐妊したものであるから、被告は原告の妊娠中絶につき責任はなく、中絶費用および中絶慰藉料を支払うべき義務はない。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 被告の責任原因
請求原因12の事実は当事者間に争いがなく、右事実によると、被告は原告の被つた後記損害につき民法七〇九条および自賠法三条本文各所定の責任がある。
二 原告の損害
1 受傷の部位・程度等
原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受けたが、成立に争いのない甲第二、第八、第二一号証、その方式と趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六、第七号証、原告本人尋問(第一、第二回)の結果によると、原告は、右受傷による治療のため、埼玉県新座市所在の高田整形外科病院に昭和五二年五月一八日通院、同月一九日から同年八月三日まで入院、同月四日から同月七日まで通院、同月八日から同年一〇月四日まで入院(以上、入院期間計一三五日)、同月五日から昭和五三年八月二日まで通院(以上、通院期間計三〇七日間、実治療日数計一三〇日)し、同病院医師の指示に基づき、朝霞台所在の西洋館治療院に同年七月二八日から昭和五四年三月九日まで通院(通院期間計二二五日、実治療日数計四四日)したこと、原告には、本件事故による後遺症状として、左右頸部筋の筋硬縮、頸椎前屈痛、右手知覚障害、同握力低下等があり、その程度は自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表の一二級一二号に該当するものであること(なお、原告は、昭和四八年ごろ、自宅の階段から転落して唇、膝等を怪我したことがあるが、本件全証拠によるも、右の後遺症がこの転落事故によつて生じたことを認めるに足る証拠はない。)が認められ、他に右事実を左右するに足る証拠は存在しない。
2 原告の被つた損害
前掲各証拠と成立に争いのない甲第三ないし第五、第九号証、乙第四、第五、第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇ないし第一五、第一九、第二〇号証、乙第一、第二、第六号証、証人森下敏之の証言ならびに弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故により次のような損害を被つたことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。
(一) 治療費 金一七万二〇〇〇円
原告は、本件事故による治療費として計金一七万二〇〇〇円(昭和五二年一〇月五日から昭和五三年八月二日までの高田整形外科病院分金五万円、同年七月二八日から昭和五四年二月一九日までの西洋館治療院分金一二万二〇〇〇円)を支出せざるを得なかつたものである。
なお、原告は、奥脇産婦人科医院での妊娠中絶費用として金六万一一八〇円を要した旨主張するが、なるほど前掲各証拠によると、原告は、本件事故後、同医院に昭和五二年八月三日から同月五日まで入院、同月一〇日通院し、この間、同医院で妊娠中絶手術を受け、原告主張の金員を支出したことが認められる。しかしながら、本件全証拠を仔細に検討するも、原告の懐妊時期が本件事故前であるか右事故後であるかが判然とせず、したがつて、右中絶費用が本件事故による損害であるものとはたやすく認めることができない。よつて、この点に関する原告の右主張はこれを採用することができない。
(二) 交通費 金九万九八八〇円
原告は、前記のとおり、高田整形外科病院と西洋館治療院に通院したが、その交通費として、高田整形外科病院分金八万五八〇〇円(ただし、タクシー往復代金六六〇円、通院実治療日数一三〇日として計算)、西洋館治療院分金一万四〇八〇円(ただし、バス往復代金一六〇円、電車往復代金一六〇円、通院実治療日数四四日として計算)合計金九万九八八〇円を要した。なお、原告は、高田整形外科病院に通院するに際し、タクシーを利用していたが、これは、当時、自宅から同病院までの交通の便が悪く(電車、バス等の交通機関がなかつた。)、徒歩だと四〇分位かかるので、やむを得なかつたものである。
(三) 入院雑費 金八万一〇〇〇円
原告は、高田整形外科病院入院一三五日間の雑費として金八万一〇〇〇円(一日金六〇〇円として計算)を要した。
(四) 家政婦料 金四万五〇〇〇円
原告は、本件事故前、市川弘子から、同人と亡高橋秀臣(原告の実弟・昭和五一年一一月一一日死亡)との間の子供である高橋憲一(当時一〇歳)を預つていたが、本件事故で入通院したため、昭和五二年六月六日から同年七月二〇日まで(四五日間)、同児を原告の夫の実弟小林三夫方に預け、同人に対し、家政婦料として金七万五〇〇〇円を支払つているけれども、本件事故による家政婦料としては金四万五〇〇〇円(一日金一、〇〇〇円の割合で計算)が相当であると認める。なお、前掲各証拠によると、原告は、本件事故前、市川弘子から、同人と亡高橋秀臣との間の子供である高橋幸枝(当時七歳)、同信一(当時三歳)をも預つていたことがあるが、右事故発生日の数か月前に右信一を、右事故後である昭和五二年六月六日に右幸枝を実母である市川弘子の許に戻していることが認められる。ところで、原告は、右二児を実母の許に行かせるにつき実母に対し多額の家政婦料を要したので、これを損害として請求する旨主張するけれども、仮に、その主張のような金員を実母に要したとしても、右事実によつては、未だこれが本件事故による損害であるものとは到底認め難く、他にこれが右事故による損害であることを認めるに足る証拠もない。したがつて、この点に関する原告の右主張もこれを採用することができない。
(五) 得べかりし利益の喪失による損害金二〇六万七六五八円
(1) 休業損害
原告は、本件事故当時、東京都豊島区池袋所在の株式会社グリーンシヤトウにホステスとして勤務していたが、本件事故のため、右事故日である昭和五二年五月一八日から再勤務日の前日である同年一〇月三一日までの一六七日間同会社を休業せざるを得なくなり、この間、金一八五万四五三一円(一、二四九、三一〇円〔本件事故前三か月間の所得〕÷九〇日×〇・八〔経費二割とみる〕×一六七日=一、八五四、五三一円〔円未満切捨〕)の休業損害を被つたものである。
(2) 逸失利益
原告の前記後遺症は自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表一二級一二号に該当するところ、原告は、同会社に再勤務した昭和五二年一一月一日以後四年間労働能力喪失率一四パーセントに相当する得べかりし利益を喪失したものというべく、これを前記所得を基礎としてライプニツツ式計算方法によつて算出すると、その額は金一九八万四六〇七円(一、二四九、三一〇円〔本件事故前三か月間の所得〕×12月/3月×〇・八〔経費二割〕×〇・一四〔後遺症一二級の労働能力喪失率〕×三・五四五九〔四年のライプニツツ係数〕=一、九八四、六〇七円〔円未満切捨〕)となる。
ところで、右(1)(2)の損害額は計金三八三万九一三八円となるところ、原告は、同会社からこの間の給与の一部(休業補償)として金一七七万一四八〇円を受領しているので、これを右損害額から控除すると、金二〇六万七六五八円となる。
(六) 慰藉料 金二二〇万円
前掲各証拠によつて認められる本件事故の態様・程度、本件受傷の部位・程度、後遺症の有無・程度、高田整形外科病院および西洋館治療院での治療の経費その他本件に現われた一切の事情を斟酌すると、本件事故による原告の精神的苦痛を慰藉するためには金二二〇万円が相当であると認める。なお、原告は、妊娠中絶による慰藉料を請求する旨主張しているけれども、前記のとおり、これが本件事故による損害であると認めるに足る証拠はないので、右主張はこれを採用することができない。
(七) 弁護士費用 金一〇万円
前掲各証拠によると、原告は、被告が本件損害賠償請求につき任意の弁済に応じなかつたので、やむなく、本訴の提起と追行を原告訴訟代理人に委任し、同代理人に対し第一審判決言渡時に弁護士費用を支払うことを約束したことが認められるが、本件事案の内容・損害認容額等に照らし、被告に負担を命ずべき同費用としては金一〇万円が相当であると認める。
三 損害の填補
以上のとおり、原告の本件事故による総損害額は金四七六万五五三八円であるところ、原告が自賠責保険から金一五七万円、被告から金二〇九万七〇〇〇円合計金三六六万七〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがないので、この受領額を右総損害額から控除すると、その残額は金一〇九万八五三八円となる。
四 結論
よつて、原告の被告に対する本訴請求中、右金一〇九万八五三八円および弁護士費用を除く内金九九万八五三八円に対する本訴状送達日の翌日である昭和五四年六月一六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条本文、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本朝光)